48. ふしぎな会計――マスコミの先駆者アルベリオーネ神父

一九二一年(大正九年)から一九三○年(昭和五年)にかけてアルベリオーネ神父は、建物の建築にいとまがなかった。修道院以外に聖堂、倉庫、レンガ焼きのかまど、電気工場などが続々と建築された。

それでお金は、いくらでも必要になった。アルベリオーネ神父は、神の摂理に絶対的な信頼を寄せ、「神さまに協力する事業なのだから、こちらも一生懸命に働けば、神さまも何とか助けてくださるに違いない」という信仰で使徒職を発展させた。ちょうど支払いが迫っている時に、ある人が現れて、ポンと大金を寄付することもあった。

そのころ、アルバ修道院の会計が院長のアルベリオーネ神父に何かの許可を願いに院長室に行ったところ、そこから話し声が聞こえてきた。あとで院長は、その会員にこう言った。

「実は二人のお客さんがやってきてね、先のお客が貸し金を今すぐ返してくれと、どなっている時に、もう一人のお客がきて、一万リーラを寄付しにきたのだよ。それで右から左に、そのお金を先のお客に渡したら、ほくほくのていで帰って行ったよ……」

ある日、印刷用紙の代金として五千リーラを支払ってくれ、と借金取りがきた。会計係りは、現金がなかったので、「銀行に行くからもう一日待ってくれ」と頼んで、外に出ようとしたところ、外から玄関のドアを開いて一人の見知らぬ農人がはいってきた。そして紙切れを会計係にさし出し、「こんな人はいますか?」とたずねた。

その紙切れには会計係の名前が書かれてあった。「はい私です」農人はポケットから何か取り出し、「この封筒は、あなた宛てのものでいが」と言った。「返事を出さねばなりませんか?」「いいえ、カステルナンドの主任司祭、マキシオン神父さんがここにくるでしょう。」と言って農人は立ち去った。会計係が封筒を開けて見ると、ちょうど五千リーラがはいっていた。これで借金をすぐ支払った。

また印刷工場の建設代金としてさしあたり五万リーラを支払わねばならなくなった。会計係が銀行へ行く途中、銀行の近くで郵便配達人に会い、会計宛ての一通の書き留めをもらった。開けてみると、五万リーラの小切手がはいっていた。会計係は、すぐに銀行にはいって借金の決済をした。

アルバ修道院の大聖堂建築の最中、労働者に賃金を支払わねばならなくなった時、アルベリオーネ神父は、ローマに出張していた。会計係は金庫にいくらもないのでとほとほと困り果てた。建築主任は、会計係にきつく言った。「社員に給料を払えないような会社は、倒産しますよ。こんなことは前にも言ったはずですが、ここは別なのですか」と。

修道院の会計係は、苦しかった。どうすればよいか? 建築主任にしばらく待ってくれと、ようやく説得して外に出し、守護の天使の祈りを何回かとなえた。すると心の中に次の勧めを聞いた。

「ロケッタ・サリエッタさんのところへ行きなさい」と。会計係は、その村を知らなかったが、サリエッタ夫妻の名前は聞いたことがあった。会計係は、しばらく考えてから、そこに行く決心をした。まず鉄道で二十四キロメートル行き、自動車に乗り継いで六キロメートル走ってようやくロケッタに着いた。

そして人に聞き聞きやっとサリエッタ夫妻の家をさがしあてた。挨拶したのち、サリエッタ夫妻は会計係に言った。「何のため、ここにいらっしゃいましたか?」「はい、私はアルバの聖パウロ会修道院にいますが、そこに私たちは聖堂を建てています。労働者に給料を払わねばなりませんが、しかしお金がありません。守護の天使の祈りを何回かとなえているうちに、あなた方の所へくる気になったのです。」

サリエッタ夫妻は互いに顔を見合わせて笑いはじめ、会計係にたずねた。「どれだけいるのですか?」「与えて下さるならば、いくらでも喜んでいただきます。」

かれらは四万五千リーラの国債を貸してくれた。それで労働者の給料を払ったあとにまだ一万一千リーラ残った。

聖パウロ女子修道会のフランチェスカ・ベルテル修道女は、アルベリオーネ神父にまつわるふしぎな資金づくりについて、次のように語っている。

「一九三○年(昭和五年)三月のことです。私は、その数か月まえに女子パウロ会の志願者になっていました。聖パウロ会は、そのころ、たくさんの借金をかかえて、今にもつぶれそうでした。私の父は私に修道院を出て家に帰ってこいと、何回も私を連れに来ました。私はアルベリオーネ神父様と相談するため、父を神父様のもとへ連れて行きました。アルベリオーネ神父は、考え深く、悲しい顔をして父の話を聞いていました。父の話がおわると応接間から出て、聖パウロ広場の角にある小さな宿屋に休みに行きました。

宿屋の主人は言いました。『悲しい顔つきをしているが、何が悲しいのですか?』父は答えました。『私は何回も女子パウロ会に行って娘を連れ帰そうとしました。聖パウロ会がつぶれでもしたら、私の娘の将来が心配にって……』宿屋の主人はすかさず答えました。「聖パウロ会は決してつぶれませんよ。アルベリオーネ神父は聖コットレンゴや聖ドン・ボスコと同じ聖人だからね。私もあなた以上に、つぶれることを心配していたのです。

というのもアルベリオーネ神父に修道院や聖堂建築資金として、たくさんのお金を貸しているからね……つぶれでもすれば、全部パーだからね……。ある日私が『金を返してくれ』と言ったら、アルベリオーネ神父は『土曜日に来なさい。あげますから』と答えました。

しかし、次の土曜日に行っても同じことを言われました。アルベリオーネ神父はお金を持っていなかったからです。このようにして五週間目の土曜日、私は今日こそは、どうしても返してもらう覚悟でアルベリオーネ神父の事務所に乗り込んで行きました。神父は私の固い決意を見てとり、机の抽き出しを開けました。私は目を見張って中をのぞいたら、中にはお金なんかはいっていません。

それから神父は私を一人、事務所に残して出て行き、しばらくしてから帰ってきて、再び抽き出しを開けました。やっぱりお金は入っていません。こんなことが四回もくりかえされました。私は怒って言いました。『その抽き出しばかり、開いて何になるのですか? 誰だって、その中にお金を入れてはくれませんよ……』

アルベリオーネ神父は、だまって、また抽き出しを開けました。私は、またも目を光らしてみると、中にお金の束があるではありませんか。二人のほかに誰もこの事務所にはいった気配はないのに、初めはなかったお金があるようになりました。これはどう説明してよいかわかりません。全くふしぎなお金でした。私は、ひどく恐れ入り、おろおろろしながらアルベリオーネ神父に言いました。『お金に困ったら、またおい出下さい。喜んでお貸ししましょう。』宿屋の主人は最後に『アルベリオーネ神父は聖人ですから、かれの創立した修道会は決してつぶれない』と結びました。」

ある日、アルベリオーネ神父は、一人のシスターにお金を急いでさがしに出かけさせた。「でも、どこへ行かねばならないのですか?」シスターは、いぶかしげにたずねた。「出発しなさい。トリノに着く前に、このお金を見つけるでしょう。」その通りお金はトゥロファレロで見つけた。

もう一人のシスターもアルベリオーネ神父の言いつけで寄付金をさがしに、幾人かの人たちのところへ行った。その人たちは床下に隠しておいた三万四千リーラを、初めて出会ったそのシスターに渡したのであった。

こうしてアスティ銀行に借りていたお金の返済を期限までに間に合わせることが゛てきたのであった。 これに似たケースがほかにもあった。アルベリオーネ神父がさし迫った事情でどうしてもお金が必要な時、ある人の好い農人が、自分の貯金を全部銀行からおろして神父に与えたが、その銀行は二日後に倒産したのであった。

アルベリオーネ神父は、自己の不足、無力を認めながらも神の摂理には全く信頼を寄せて、こう述べている。「摂理は神の普通のなさり方に従って、強く、かつ、やさしく働いた。

……神の摂理のみ手を強制する必要はない。ただよく警戒し、その導きに身を任せる必要がある。さまざまな義務の遂行 において知性、意志、心、体を投入するように努力すれば、充分である。人間は、いちでも、あたまの不完全さ、欠点、誤り、不足の行動についての疑いをもっているので、神のあわれみのみ手に全く身をゆだねて、その導きに身を任せる必要がある。

時おり、窮乏は火急の対策を必要とする重大なものだった。あらゆる方便と人間的希望が閉ざされた時にも、祈りつつ罪と清貧にもとるあらゆる過失を退けるように努力した。すると、未知の人からの送金、自発的な融資、新しい協力者の出現、いつになっても彼には説明のつきかねる思いがけない解決がおきるのだった……。

歳月が過ぎて、多くの人びとが口にしていた、きっと破産するに決まっているという声や気違いだという非難もいつしか消えていった。かろうじてではあるにせよ、すべて平和のうちにおさまった。債権者は、誰ひとりびた一文も損をしなかつた……出入りの商人、建築業者、商社などとは、いつも信用関係を保った。」

なお、アルベリオーネ神父はパウロ家の事業は神の事業であると確信して、自分の弟子たちにこう教えていた。「神の事業は、お金ではなく、祈りと神への信頼をもって始まる。神に信頼して進みなさい……お金で始めるのは一つの企業の才能である」と。

神父はねいつも借金をかかえていたが、一つの借金は、必ず最大三年から五年のうちに返し、決して借金で会員たちを圧迫するほどの重荷をかついだり、事業をつぶすような危険な綱渡りはしなかった。

・池田敏雄『マスコミの先駆者アルベリオーネ神父』1978年

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現代的に一部不適切と思われる表現がありますが、当時のオリジナリティーを尊重し発行時のまま掲載しております。

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