『判決、ふたつの希望』:ブラザーが選ぶ!おすすめ映画

「売り言葉に買い言葉」という言葉がある。相手の些細な言葉や行動に腹を立て、その気持ちを相手にぶつけてしまう場合などに使う。この場合、もし双方に人種、国籍、宗教などの違いがあったとしたらどうなるのだろうか。

レバノンの首都ベイルートの住宅街で小さな諍(いさか)いが起こった。パレスチナ人のヤーセル・サラーメル(カメル・エル=バシャ)は、違法建築の補修作業を行う現場監督をしている。偶然、アパートのバルコニーから水漏れがしているのを見つけて修繕したのだが、そこに住むレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・カラム)に修繕したばかりの配水管を壊されてしまう。腹を立てたヤーセルは、トニーにとても汚い言葉を投げつけて、その場を立ち去ってしまう。

一方トニーは、彼の言葉に怒り、現場の工事事務所に乗り込み、「謝罪しないなら、奴と会社を訴えるぞ」と脅す。事を丸く治めようと所長のタラールは、ヤーセルを連れてトニーが経営している自動車修理工場に謝罪に行くのだが、パレスチナ人を心良く思っていないトニーはその謝罪を受け入れず、ヤーセルに「一人で謝ることも出来ない奴! お前なんかシャロン(*注)に抹殺されていればよかった!」と暴言を吐くのだった。謝罪に来たはずのヤーセルだったが、その言葉にカッとなって思わずトニーを殴りつけ、肋骨を2本折るという大ケガを負わせてしまう。(*注:アリエル・シャロン(1928-2014)。第15代・イスラエル首相)

この事件は、トニーを殴ったことを悔やんだヤーセルが警察に出頭したことでさらに大きくなり、裁判にまで発展していく。裁判長はこの事件がただの配水管修理のトラブルが原因でなく、トニーの暴言に反応したヤーセルが彼を殴ってしまったことにあると気付き、証拠不十分で訴えを「破棄」する。しかしこの決定に不満なトニーは、控訴を申請する。やがてこの裁判の行方に興味を持ったマスコミが彼らの特番を組み、事態はもはや2人だけの問題ではなく、レバノンに住むパレスチナ人とレバノン人全体の争いにまで発展、ついに大統領が仲裁に入るというところまで大きくなっていく。

ほんの些細な口論が、国全体を揺るがす大事件へと広がっていく。私たちは、社会の中で生きている限り人とぶつかることは避けられない。そんなとき、少しでも早いうちに和解することの大切さをこの映画は教えてくれる。 

聖書の「あなたを訴える人と一緒に道を行く場合、途中で早く和解しなさい」(マタイ5・25)という一節を思い出す。相手を尊重し、愛をもって受け入れることで「小さな諍い」も回避することが出来るのではないだろうか。他人事として観るのではなく、“自分たちの今”を振り返りながら観るとき、この映画は身近なテーマとなって私たちに迫ってくる。

PHOTO© TESSALIT PRODUCTIONS‒ROUGE INTERNATIONAL


映画『判決、ふたつの希望』
2018年8月31日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督:ジアド・ドゥエイリ
脚本:ジアド・ドゥエイリ、ジョエル・トゥーマ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャ
配給・宣伝:ロングライド
時間:113分
2017年/レバノン、フランス映画
公式サイト:longride.jp/insult/

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