全てをおん父にお返しするという種 年間第29主日(マタイ22・15〜22)

私が20代の頃でしょうか、母から「最近物忘れがひどくなるし、耳も聞こえにくくなった」と言われたことがありました。私は、母に「それでいいんじゃない。そうやって体の一つ一つを天国に返してくんだから。そして、最後に亡くなる時に魂をお返ししてくと思うよ。」と言ったことがあります。

人は若くしてか、老いてかは別にして亡くなります。その時が、天のおん父に自分自身をお返しすることになるのではないでしょうか。

きょうのみことばは、イエス様とファリサイ派の人々とヘロデ党の人々がローマ皇帝への納税について論争をする場面です。

みことばの始めに「ファリサイ派の人々は外に出ると、イエスの言葉じりをとらえようと協議した。そこで、自分たちの弟子をヘロデ党の者たちと一緒に、イエスのもとに遣わして言わせた。」とあります。犬猿の仲という言葉がありますが、異教徒であるローマ帝国に納税することを快く思っていない「ファリサイ派」とローマの支配を支持し、彼らに納税しない人を告発していた「ヘロデ党」とは、相入れないグループだったのです。その二つのグループが揃って「言葉じりを捉えよう」イエス様の所にやって来たのです。

特にファリサイ派の人々は、「イエスが自分たちのことを語っておられることに気づいた。そこで、イエスを捕らえようとしたが、民衆を恐れた。民衆がイエスを預言者だと思っていたからである」(マタイ21・45)とありますように、散々イエス様から自分たちのことを指摘されていたため、何とかしてイエス様を支持している民衆から自分たちの方に向けようとしていたのでしょう。

そこで、ファリサイ派の人々は、納税に厳しい「ヘロデ党」と一緒に彼らの弟子をイエス様のところに遣わしたのでした。まず彼らは、イエス様のところに来て「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、真理に基づいて神の道を教え、また相手によって態度を変えず、誰をもはばからない方であることを知っています。」と挨拶をします。イエス様のことをよく思っていない彼らにしては、このような言葉すら言いたくはないことでしょう。しかし、これらの言葉は、イエス様の本当の生き方でしたし、このような姿で人々に接していたので多くの民衆がイエス様に惹かれてついて行ったのでしょう。もし今の時代にも、このようなリーダーがいたとすれば、私たちもついて行ったことでしょう。

さて、彼らは、誰もが信じているイエス様の姿を言い伝えた後に「ところで、お伺いいたしますが、どうお考えでしょうか。ローマ皇帝に人頭税を収めることは、許されているのでしょうか、いないのでしょうか」と質問します。この質問でもし、イエス様が「納税しなさい」と言われるとローマの支配を快く思っていない民衆の敵となりますし、「納税をしてはいけない」と言われるとローマ皇帝に逆らう者としてローマ皇帝に引き渡す口実ができるのです。

以前イエス様は、このような【どちらの答えを出しても自分の不利になるような質問】をファリサイ派の人たちにしたことがありました。その時彼らは民衆を恐れ、また自分たちを守るために答えることができませんでした(マタイ21・23〜27)。今度は、彼らが同じような質問の仕方を使ってイエス様を陥れようとしているのです。イエス様は、彼らの質問を聞いた後に「偽善者たち、どうしてわたしを試みるのか。人頭税に収める銀貨を見せなさい。」と言われます。そして彼らが持ってきた銀貨を見て「これは誰の肖像か。また誰の銘か」と言われます。彼らは、「皇帝のものです」と答えました。

当時の銀貨には、「崇高なる皇帝ティベリウス、神聖なるアウグリウスの子」という言葉が刻まれていました。このことは、十戒の「お前はわたしのほかに何ものも神としてはならない。自分のために偶像を造ってはならない。……それらに仕えてはならない。」(出エジプト20・3)や「イスラエルよ、よく聞け。わたしたちの神、主こそ、唯一の主である」(申命記6・4)ということに反することなのです。イエス様が彼らに対して、「偽善者」と言われたのは、「納税のことで『私』に質問してくるよりも常日頃から、『主である神に仕えなさい』」ということを指摘されたのではないでしょうか。

イエス様は、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」と言われます。パウロは、「あなた方の体は、キリストの体の一部であることを知らないのですか。……あなた方の体は、神から受けた聖霊が宿っていてくださる住まいであり、そして、あなた方はもはや自分自身のものでなはないことを」(1コリ6・15、19)と伝えています。私たちが住んでいるこの地球も、私たち自身も全ておん父からいただいたものです。私たちは、これら全てに感謝して、謙遜な気持ちでおん父にお返しできるような歩みをすることができたらいいですね。

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