41. 家庭的雰囲気づくり――福者ジャッカルド神父の生涯

ティモテオ院長は、以上の仕事のほかにも、創立者の首席顧問として年に何回もローマとアルバの間を往復し、国際化したパウロ家の支部からの諸問題の解決に取り組む一方、教会や市町村の当局物たちとの交渉に駆け回り、パウロ家の修道士・修道女・在俗会員たちの霊的指導などにも忙殺されていた。

それでも、ティモテオ院長は母院の人たちの生活指導を何よりも心にかけて、規則正しい生活をさせながらも、実に家庭的な団らんを作り上げていった。だれにでも、関心を示し、顔を合わせる一人ひとりに声をかけ、自分では疲れとか、嫌気を顔に表さずに、相手の話に喜んで耳を傾け、その気持ちを理解しようと努め、親身になって相談に乗っていた。そして、口ぐせのように、こう言っていた。「院長は修道院の代弁者です。たくさん祈らなければならず、耐え忍ばなければならず、奉仕しなければなりません」と。その言葉どおり、何かにつけて奉仕していた。たとえば志願者の面倒をよく見て、食事の前に台所に入ってスープの味見をすることもあった。そして、料理係のシスターにこう勧めていた。「ピエモンテとロンバルディアの若者には、おいしいリゾットを作ってあげなさい。でも南イタリアの若者には、おいしいスパゲッティを作ってあげなさい」と。

台所のあるシスター(その時は院長職にあった)はサラダが大好きだったので、取り立てて野菜類をサラダとして、若者用のテーブルの上にもしょっちゅう出させていた。それで、食欲旺盛な若者たちは即興の交唱詩編を声高に唱えた。「キリストは弟子たちに仰せになった。草は牛のために作られた食物である」と。ティモテオ院長はその声を聞いて、例のシスターに、こう言った。「お聞きになりましたか? 民衆の声は天の声ですよ」と。動物さえ、草の善し悪しを敏感に選り分けて食べているのだから、まして人間は……という言葉のあやがシスターにはピンときた。

そのほかに、毎年「教師たちの祝日」と称するすばらしい行事を催すように気を使った。生徒たちが教師への日ごろの恩を感謝し、本会の家族精神を強固にするために設けられたものであった。この日は祭壇を美しい花で飾り、荘厳な歌ミサを行い、食堂では特別なご馳走をサービスした。

また、外国から一時帰国した兄弟会員たちには黙想の場を提供し、母院の人たちに勧めて、あたかもふるさとの母親の愛情に触れさせるかのように、これらの宣教者たちを温かく迎えて感謝の念を表し、その労をねぎらい、再び宣教地で懸命に働くための体力作りの場および英気の補給基地にしていたのであった。

ティモテオ院長は、毎日昼食後に医療室の病人を見舞い、その状態を理解して、必要な励ましや助言を与えていた。また、看護のシスターの労苦をねぎらう一方、病人にきつい当たれ方をしている場合には、ピノッキオの童話を持ち出して、間接的に看護のあり方を論していた。
また、年配のある修道士が販売・普及活動から修道院に戻ってくるたびに、ティモテオ院長は「体調はどうですか? それでは大事を取って、ぐっすり眠りなさい」と言ってから、一瞬黙祷した後にその修道士を祝福し、キャラメル二個を与えていた。キャラメル二個とは、グルメ(Gourmet =食通)志向の飽食日本の現状ではいささか子どもだましに見えるが、お菓子の少ない当時のこと、これをプレゼントにするという発想には何とも心温まる思いがする。

この母院に出入りしていた設計技師のマリオ・バルベリスも、ティモテオ院長からキャラメルをプレゼントされていたが、その時の印象をこう語っている。「いつもの仕草で私を部屋に向かい入れてくださった神父様の印象が、今も心に焼き付いています。部屋に入って椅子を勧めてくださった途端、必ずキャラメルを差し出してくださいました。それから、私の相談事にじっくりと耳を傾けていました。そして私の手を取って軽く叩いてから、困り切って見通しの立たない状況の私を励まして、やる気を起こさせてくださいました」と。

また、ティモテオ院長は使徒職の場をたびたび見回っていたが、そのたびごとにキャラメルを配っていた。チェレスティノ・リッゾ修道士の証言によれば、ティモテオ院長は何か厳しいことを言う時とか、注意する時とか、叱る時には決まってキャラメルを差し出していたのである。リッゾ修道士は、次のように述べている。「ある時、二人の修道士が仕事のことで言い争いをしていました。それでティモテオ院長は、゜二人を院長室に迎え入れてから、いろいろの仕事には程度の差もない、どんな仕事も神のみ前では尊いものであることを二人に理解させた上で二人にキャラメルを二個づつ与えました」。

・池田敏雄『マスコミの使徒 福者ジャッカルド神父』1993年

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