07. アルバ神学校生活――福者ジャッカルド神父の生涯

当時のイタリアの神学校制度は、小神学校・中神学校・大神学校の三段階に分かれていた。小神学校はジンナジオ(Ginnasio)という四年制で、中学校の諸教科のほかに、ラテン語、ギリシャ語、カトリック要理などを学ぶ。次の段階がリチェオ(Liceo )という三年制の中神学校。科目は哲学、物理、作文、イタリア史、宗教など。最終段階が四年制の大神学校。科目は神学、教会史、聖書学、典礼など。いずれも入学は10月で、卒業が6月である。

以上の三段階のアルバ神学校は同じ敷地内にあり、全寮制で、規律ある共同生活が求められる。神学生たちは毎日ミサ聖祭にあずかり、聖体を拝領し、祈り・黙想・良心の糾明をし、時にはゆるしの秘跡や霊的指導を受け、種々のスポーツに汗を流し、教会の諸儀式にも参加する。要するに、ここでは勉学を生活に生かし、神を身近に感じる完全な人間養成を目指し、宣教活動と教会司牧に専念する有為な人材育成に力を注いでいる。

当時、アルバ神学校の学力・信心・規律のレベルは高く評価されていた。当時のアルバ教区長はフランシスコ・レ(Francesco Re)司教で、学徳の誉れ高く、神学校でも毎日曜日、社会問題や教区の司牧問題を含めた博学な宗教講話をしていた。当時は資本家が労働者の人権を無視し、劣悪な労働環境で低賃金の長時間労働をさせ、組合結成も認めなかった。ここに社会主義者が台頭し、“私有財産をすべて国有化し、労働者だけの平等な社会を作ろう“と呼びかけて労働者を決起させ、資本家をつぶす階級闘争を始めようとした。

そこで、1891年(明治24年)に、あの有名な社会回勅『レールム・ノヴァールム(Rerum Novarum )』が、レオ十三世教皇によって出されたわけであるが、この要旨は労働者の団結権を認め、働きやすい環境を作り、社会主義者の説く資本家と労働者間の階級闘争をやめて、その代わりに両者の相互補完を強め、私有財産の国有化よりも、ある程度の私有権を認めることによって企業家精神と労働意欲を発揮させ、社会全体が利潤を分け合って互いに助け合う、といったものである。当時アルバ教区では、進歩的レ司教と相まって、この回勅に影響され、他の教区よりも際立って社会運動が高まっていた。

ピノトゥ神学生は、この回勅が発布されてから約二十年後にレ司教の解説によって現実の社会問題に目を開かれ、現在の生活の中で回勅の精神を生かそうとした。このころのピノトゥの人となりを、先輩のパスクァーレ・ジャノリオ(Pasguale Gianolio )神父はジャッカルド神父の列福調査の際に、こう述べている。

ピノトゥは痩せすぎで、体格はパッとしませんでしたが、しかし二つの黒い瞳はたいへん生き生きとしており、明るい落ち着いた魂を映し出していました。いつもほほ笑みをうかべ、礼儀正しい振る舞いをしていました。聖堂では祈りや黙想に専心し、独りよがりのところはありませんでした。そして、こういう振る舞い方を生涯貫きました。ピノトゥの両目は、何といっても、本人の熱烈な内的生活を……つまり、間違いなくその魂を覆っている恩恵の輝きを表出するものでした。別に特別な病気をしたとは思いませんが、健康優良児ではありませんでした。バランス感覚に優れていました。それで、難しい状況にあっても、常に泰然自若としていて、いらだつ様をまったく見たことがありませんでした。

ピノトゥは、1908年(明治41年)10月に12歳でアルバ神学校のジンナジオ課程に入学して以来、共同生活になじみ、持ち前の温和な誠実な、人当たりのよい奉仕的性格によって同級生に好かれた。また勉学にも信心にもめきめき頭角を現すので、意地悪もされたが、軽く受け流していた。しかも、威張った様子はまったくなく、逆に謙虚で目立たないようにしていた。ピノトゥの手帳の中には、以上のお恵みは「上知の座」である聖母の取り次ぎによるものである、と次のように述べている。

私は学生時代、机に向かっていた時も、本を読みふけったり宿題に取り組んだりしていた時も、教室でも、講話や演芸会の時でも、あなた(注、聖母)に取り次ぎを願っていました。あなたのご絵の前で、それに他のご絵も交えた前で、いつも射祷を何回も唱えて、敬意を表していました。

ピノトゥは、その性質からして、じっくり反復して考える科目が得意であった。すなわち、ラテン語、ギリシャ語、科学、哲学、神学などが得意であった。作文は性に合わなかった。頭の中で考えたことを文章にするのが苦手であった。言いたいことをはっきり表現するのが不得手だったので、説教には向いていないようであった。著述においても、発想が湧き出るわりには理路整然としておらず、回りくどくて込み入っていた。

・池田敏雄『マスコミの使徒 福者ジャッカルド神父』1993年

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