聖マリアの誕生

今回は、9月8日に祝われる聖マリアの誕生の祝日について考えたいと思います。

人間の誕生、それは不思議な出来事です。子どもは自分から望んで生まれて来るわけではありませんし、民族、国籍、家柄などを自分で選べるわけでもありません。親が生まれて来る子を選ぶわけでもありません。人間の誕生という出来事の中には、私たちの思惑を超えた力——これを私たちキリスト者は神の力と呼びますが——が働きます。神こそが、すべての人間の誕生をつかさどっておられるのです。これは、マリアの誕生にも当てはまります。マリアが自分の意志で生まれて来たのではなく、神が永遠からマリアを救い主の母としてお選びになり、マリアをこの世に生まれさせたのです。ですから、マリアの祝日は、マリア自身をたたえるというよりも、むしろ救い主の母になるお方をこの世に生まれさせた神の偉大なわざをたたえる日なのです。

さて、マリアの誕生について、福音書は直接に何も語っていません。しかし、ルカが記すイエスの誕生物語は、間接的にではありますが、マリアの出生の一面を私たちに教えてくれます。ルカによる福音書1〜2章には、洗礼者ヨハネの物語とイエスの物語が並行しながら語られています。天使によるヨハネ誕生のお告げ、イエス誕生のお告げ、二人の子どもの母親の出会い、ヨハネの誕生、イエスの誕生といった具合です。その中で、ヨハネとイエスの両親も対比されています。ヨハネの両親ザカリアとエリサベトについては、「ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた。その妻はアロン家の娘の一人で、名をエリサベトと言った」(1・5)と記されています。ザカリアが祭司であるだけでなく、エリサベト自身も祭司の家柄に生まれたことが明記されています。ヨハネの誕生の場面のにぎわいから推察して(1・57〜66)、おそらく彼らは社会的にも認められていた裕福な家柄の出身だったのでしょう。一方、ヨセフとマリアについては、「天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった」(1・26〜27)と記されています。マリアについては、どこの家系の出身なのか記されていません(後にエリサベトの親類であることが記されてはいますが)。これは、エリサベトがアロン家の出身であることが明記されているのと対照的です。まるで、マリアは名もない(少なくとも、あえて記す価値のない)家系に生まれたとでも言いたいかのようです。また、マリアはナザレというガリラヤの町にいたことが記されています。マリアがナザレで生まれたかどうかは定かでありませんが、そうであったと考えてもおかしくはないでしょう。ルカは、ナザレを「町」と呼んでいますが、当時のナザレは小さな集落にすぎませんでした。旧約聖書にも一度も出てきませんし、「ナザレから何か良いものが出るだろうか」(ヨハネ1・46)と言われるくらい、まったく重要視されていない小村でした。このように、無名の小さな集落で、注目する価値もない家に生まれた女の子、これがマリアの出生について福音書から知ることのできるすべてです。決して誇ることのできるような出生ではありません。人間的に見れば、マリアからではなく、エリサベトから救い主が生まれることのほうがふさわしく思われたことでしょう。しかし、神は無名のおとめを救い主の母としてお選びになったのです。マリアの誕生の時に、この女の子が救い主の母になると誰が想像し得たでしょうか。しかし、人間が誰一人気づかない中で、神はマリアを救い主の母として定め、この世に生まれさせていたのです。

マリアの誕生を祝うとは、救い主の母となる方を誕生させてくださった神をたたえることであると同時に、マリアの誕生のように今も人びとの気づかないところですでに救いのわざを行なっておられる神をたたえることであり、私たちが人間的、外面的価値判断に頼ってこの救いのわざを見落としてしまうことのないように努めることでもあると言えるでしょう。「身分の低い」(1・48)マリアを救い主の母として選んでくださった神は、きっと今も身分の低い人、注目されていない人、価値のないと思われている人を救いの中心人物として選んでおられるからです。マリアの取り次ぎによって、私たちが神の救いのわざに少しでも敏感になることができるように祈り求めることにしましょう。

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