2. 生い立ち

ヤコブ・アルベリオーネは、一八八四年(明治一七年)四月四日北イタリアはピエモンテ州クオネ県フォッナーノのサン・ロレンツォという村で、父ミケレと母テレサ・ローザ・アッコロの五番目の子供として生まれた。両親は貧しい百姓であったが、神を畏れる人で、わずかな土地を耕したり、農場ではたらいたりしながら、七人の子供たちを信心深く育てた。生まれたばかりのヤコブは、未熟児で、今にも死にそうであったので、父親は、主任司祭のたび重なるすすめに従い、いち早く翌日ヤコブに洗礼を授けた。とくに母親の手厚いせわで、元気に育ったものの、ほかの兄たちに比べると、ほっそりとした体で、活気がなかった。

ヤコブが二歳の時、この一家はケラスコ(Cherasco)モンテカブロ(Montecapriolo)へ移住した。ここの農場を借りることができたからである。しんこう心のあついアルベリオーネ一家は、「恵みの聖母」にささげられた待ちの聖堂へ、うれしいにつけ悲しいにつけ、お参りに行った。ヤコブは、幼年期も青少年期も司祭になってからも、この聖堂の聖母のご絵の前で、しばしば祈っていた。父のミケレは、農場の畑をたがやし、乳牛を飼育していた。

ある日のことである。くびきをかけられた二頭の牛が、牛車につながれてアルベリオーネ家の庭先にとまっていた。ぎらぎら照りつける太陽の暑さとその牛の皮膚に群がり集まる吸血気アブにたまらなくなって、二頭の牛は突然あばれ出した。その時、幼いヤコブは、無造作に道に置かれていた。母のテレサは、あばれ出した牛がヤコブのほうに走って行くのを見て、今にも牛車にひかれているのではないか、と心配して「恵みの聖母」に「助けてください」とお祈りしながに、目をつむり、両手で顔をおおい、痛ましい事故を見まいとした。牛車の音が遠ざかって行くのを聞いて、母のテレサは、目を開いた。驚いたことに、牛車に引っかけられて、ころんだヤコブは、こわがって泣いているが、かすり傷ひとつ負っていない。テレサは駆け寄って、ヤコブをだき上げたのであった。後年、アルベリオーネ神父は、これを思い出して、この地方の百姓たちの「恵みの聖母」への素朴な信仰をほめたたえた。

ここで生まれた妹のマルガリタは、生後まもなく死に、一八八九年(明治二一年)末っ子の息子トマスが生まれた。

ヤコブ少年は、父や三人の兄の苦労を少しでも軽くするため、学校の帰り道、家には帰らずに父の畑へ行き、上着とくつをぬぎすてて畑で働いた。また乳牛を牧場につれ出し、草を食べさせたりしていた。そのころの話である。ある日、ヤコブは、母のテレサに頼まれて弟のトマソの子守りをしながら、幾頭かの乳牛を牧場へつれ出した。トマソは牛小屋の中のゆりかごに寝かされていた。ヤコブは、このゆりかごに長い綱をつけ、家の外から引っ張ってゆさぶられるようにしていた。ヤコブは牧場の乳牛に気を取られ、ゆりかごにつないである綱を何かのはずみで力いっぱい引っ張った。これでゆりかごは、ひっくりかえり、トマソは毛布にくるまったまま、乳牛のうしろ足の間に、ストンと落ちた。ヤコブはそれに気がつかず、乳牛に牧草を食わしていた。母のテレサはただならぬ赤ん坊の泣き声に飛んできて拾い上げ、あやうく一命を取りとめたということである。

・池田敏雄『マスコミの先駆者アルベリオーネ神父』1978年

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現代的に一部不適切と思われる表現がありますが、当時のオリジナリティーを尊重し発行時のまま掲載しております。

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