パウロは奴隷制度を否定しなかったのですか?

パウロは逃亡奴隷オネシモのために、その主人フィレモンにとりなしの手紙を書きましたが、奴隷制度そのものに反対とは言っていません。パウロでも、奴隷制度が福音に反する制度だという見識を持っていなかったのですか。パウロに奴隷制度を廃止すべきだという内容の言動はないのですか。

パウロに「奴隷制度は反福音だ」という見識はありません。これはイエス様も同じです。イエス様は奴隷制度について何も言っておられません。その意味でイエス様は奴隷制度を容認しておられました。だからと言って、現代に生きる私たちが、奴隷制度を容認することは許されません。奴隷制度は反福音です。

そもそも旧約のイスラエルの民は、エジプトにおいては奴隷でした。彼らは奴隷であることの悲惨と不幸を、骨身に沁みて体験していました。ですから、エジプトから脱出した後、イスラエルの民は同胞を奴隷とすることを禁じる法律を作りました。「もし同胞が貧しく、あなたに身売りしたならば、その人をあなたの奴隷として働かせてはならない。雇い人か滞在者として共に住まわせ、ヨベルの年まであなたのもとで働かせよ」(レビ25・39—40)。しかし、彼らも奴隷制度そのものを廃止しようとは考えませんでした。「しかし、あなたの男女の奴隷が、周辺の国々から得たものである場合は、それを奴隷として買うことができる。彼らをあなたの息子の代まで財産として受け継がせ、永久に奴隷として働かせることもできる」(レビ25・44、46)。古代世界は、奴隷制度なしには考えられない世界でした。

そもそも、旧約聖書にも新約聖書にも、奴隷制度は反福音だという認識は全くありません。そのような認識が生まれるのは、近代に入ってからです。それまで、奴隷制度は人間の「悲惨」であると認識されていました。そしてその悲惨さは、キリスト教的愛や慈善の対象でした。

奴隷制度が慈善の対象であると理解されているなら、教会は奴隷制度と戦う必要はなく、両者の共存は可能です。しかし、奴隷制度を反福音、制度的悪と理解するなら、両者の共存は許されません。福音を信じる者は、この制度的悪と決別し、断固これと戦うことが求められます。

パウロの時代には、奴隷制度が反福音であるという気付きは全くなく、パウロもそこまでの見識は持ちませんでした。この意味で、パウロの福音理解も時代の制約を受けています。同様のことが、わたしたちの福音理解にも当てはまります。

●回答者=鈴木信一神父

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