聖ペトロ

6月29日は、聖ペトロと聖パウロという教会の礎となった二大聖人を祝う日です。今回は、二人のうち聖ペトロを取り上げ、当日のミサで朗読される福音の箇所(マタイ16・13〜19)を中心に深めることにしましょう。

ところで、ペトロとはどのような聖人なのでしょうか。頭に浮かぶことを挙げてみてください。まず、最初に召し出された弟子の一人です。ペトロはすべてを捨ててイエスに従います。弟子たちの中でもいつも最初に名前が挙げられ、大切な場面ではほとんどイエスのそばにいます。そして、今回取り上げた福音では、イエスから教会を任されます。名実ともに一番弟子であり、イエスが昇天された後の教会のいわゆる最高指導者です。

そこで、仮に皆さんが福音を書いて、後に続く弟子たちを励ます役割を与えられたと考えてみてください。たぶん、ペトロがどれほど一番弟子としてすばらしかったか、どれほどすばらしい業や言葉で教会を引っぱっていったかを描くだろうと思います。ところが、実際に福音書が描いているのは、そんな優秀な弟子の姿ではないのです。

ペトロは確かにいつもイエスのそばにいて、その教えを聞き、その業を目にします。しかし、他の弟子たちと同じく、イエスのことを理解できません。今回の福音の直前の箇所でも、イエスはペトロたちに「まだ、分からないのか」(マタイ16・9)と言っています。また、今回の福音の直後の箇所では、イエスはペトロに厳しい言葉を投げかけます。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者」(23節)。イエスはたびたびファリサイ派の人たちや律法学者たちを厳しく批判していますが、彼らにすら「サタン」という呼びかけは使いませんでした。それほど、ペトロに対する叱責は厳しいものだったのです。さらに、イエスが死を前にして極限の苦しみの中で祈っていた時も、ペトロは眠気に勝つことができませんでした。そして、いざイエスが逮捕される場面に出くわすと、イエスを置いてさっさと逃げ出してしまいました。また、自分に疑いがかかりそうになると、呪いの言葉さえ口にしながら「イエスなど知らない」と誓ったのです。わずか数時間前に「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」(マタイ26・35)と断言したのにです。口では「イエスに従う」と言いながらも、イエスを理解できず、いざという時にはイエスを捨て、我が身の安全を考える……そんな出来の悪い、弱い弟子、これがペトロです。しかも、福音書は、ペトロの弱さを隠そうとしません。

ところが、イエスは、この弱いペトロを土台として教会を建てる、と言われるのです。ずいぶん心もとない土台です。その上に建つ教会は大丈夫なのだろうか、そう思ってしまいます。それなのに、イエスは「陰府の力もこれに対抗できない」(18節)とまで断言されるのです。礎であるペトロは弱いのに、そんな教会のどこに、そこまで言い切れるほどの強さがあるというのでしょうか。

ここで、私たちが祝っているもう一人の聖人、パウロの書簡の一節を引用したいと思います。弱さと痛みの中であえぐパウロに与えられた主の言葉です。「あなたには私の恵みで十分だ。弱さの中でこそ、力は十分に発揮されるのだ」(2コリント12・9:拙訳)。人間の弱さの中にこそ、かえって主の力がはっきりと現れるというのです。そう、陰府の力を打ち負かすほどの教会の強さは、弱い私たちの中で働かれるイエス・キリストの力強さなのであり、福音書がペトロの弱さを隠さないのも、キリストの力強さに信頼しているからなのです。

今日の教会を形作る私たちも、例外なく弱い、出来の悪い弟子です。でも、この弱さを隠す必要はありません。すべてをさらけ出してよいのです。弱い人間が集まるこの教会を、キリストは「わたしの教会」(マタイ16・18)と呼び、この教会の中で働いてくださるのですから。自分の弱さ、至らなさを認め、ありのままの自分を受け入れましょう(ただし、これはそんなに簡単なことではありません)。そして、自分の力に信頼するのではなく、弱い自分の中で力強く働かれるイエス・キリストに全幅の信頼を置きましょう。

教会が、その弱さの中に、キリストの力を存分に発揮していくことができますように。

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