聖ヨゼフの祭日

三月十九日は聖ヨセフの祭日です。ヨセフは、イエス・キリストが人として生まれるにあたり、大切な役割を果 たした人で、広く崇敬されている聖人です。そのわりに、私たちはこの聖人についてあまり多くのことを知りません。聖書も、この聖人の生涯についてほとんど教えてくれないのです。

さて、今回取り上げた箇所では「ヨセフは正しい人であった」(19節)と言われています。「正しい」、これは聖書がヨセフに与えている唯一の形容詞です。この聖人を端的に表現すれば、「正しい人」ということになるのでしょうか。でも、ヨセフが正しい人であるとは、どういうことなのでしょうか。聖書の箇所を読んでみましょう。

ヨセフはマリアと婚約していましたが、いっしょになる前にいいなずけのマリアが子を宿していることを知ります。自分の婚約者が別の男性の子を宿した、ヨセフはこう思ったはずです。ヨセフの心中はいかほどだったでしょうか。とても悩んだことでしょう。最終的に、ヨセフは「マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心」(19節)します。大きな罪を犯したかもしれないマリアを告発しようとはせず、事の真偽を確かめようともせず、マリアのことをかばおうとするのです。そして、このような決意をした理由として聖書が記すのは、「ヨセフは憐れみ深い人であったので」ではなく、「ヨセフは正しい人であったので」なのです。

この場面に限ったことではなく、聖書の語る「正しさ」は、私たちが「正義」と言う時に考えるような抽象的なものでもなければ、まして自分本位 なものでもありません。具体的に相手の人の立場に立ち、その人にとって何が最もふさわしいかを考え、行動すること、つまり具体的な愛の行為をいつでも含むものなのです。ヨセフはそういう意味で正しい人でした。

しかし、ヨセフの最もすばらしい点は、この「正しさ」を超えたところにあるのです。もう一度聖書の言葉に戻ってみましょう。ヨセフが決心した後、天使が夢に現れます。そして、マリアが聖霊によって子を宿したことをヨセフに知らせ、マリアを妻として迎え入れるように言います。ヨセフは天使の言葉に従い、眠りから覚めるとすぐにマリアを迎え入れるのです。

ヨセフが決意したことは、マリアを離別することでした。天使が命じたことは、マリアを妻として迎え入れることでした。正反対のことです。にもかかわらず、ヨセフは天使の言葉に従います。ヨセフのすばらしさは、自分の正しさに基づいて決めたこと(それがすばらしい愛の行為であったにもかかわらず)に固執することなく、正反対の神の言葉を受け入れたことにあるのです。これこそ、マタイによる福音書一〜二章を通して一貫して見られるヨセフの態度です。エジプトに逃げる時も、エジプトから戻る時も、ナザレの町に行く時も、ヨセフは天使の言葉に忠実に従います。ひと言も反論することなく、歩かなければならない旅路の辛さに不満をもらすこともなく(エジプトを出て荒れ野をさまよい、不満をもらした旧約のイスラエルの民と比較してみてください)、黙々と神の言葉に従います。悩み抜いた末の決心を覆えされるというのに、ヨセフは、ひと言も発することなく、神の命令に従うのです。

私たちは信仰を受けた者、「正しい者」として、周りの人たちのために祈り、苦しんでいる人たちのために何かをしたいと望み、この人たちのために良かれと思うことを行うよう努力しています。これはとてもすばらしいことです。それならば、ヨセフに倣い、自分の正しさをも超えて、神の語られる言葉に従うことは、なおさらすばらしいことです。これは決して簡単なことではありません。時として大きな苦しみを伴うこともあります。しかし、ヨセフが自らの決心を覆えして天使の言葉に従った時にこそ、神の子キリストが救い主としてこの世にお生まれになったことを思い起こしましょう。同じように、私たちが信仰をもって神の言葉を受け入れ、命じられたことを行動に移す時、そしてそのために自らの難産の末の決意をも喜んで手放す時、確かに私たちもキリストの救いの実現のために大きく貢献しているのです。

自分の正しさをも超えて神の言葉を受け入れることができる恵みを、聖ヨセフの祭日に願いつつ。

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