聖トマス・アクィナス司祭教会博士

聖トマス・アクィナス(典礼暦では1月28日に記念します)は、13世紀に生きた聖人で、キリスト教思想史の中で非常に大きな貢献をした人です。当時、イスラム文化を媒介として古代ギリシアのアリストテレス思想が再びヨーロッパに伝えられ、ともすると思想的混乱が起きていた中、彼はこのアリストテレス思想を伝統的思想と調和させながら、新しい視点からキリスト教神学体系を築き上げました。トマスは数多くの著作を著しましたが、その中でも『神学大全』や『対異教徒大全』は特に有名です。

しかし、トマスのすばらしさは、決してその知識だけにあるのではありません。トマスは、南イタリアの貴族の家に生まれ、当時隆盛を誇っていたベネディクト会のモンテカッシーノ修道院で教育を受けました。ところが、彼は創立されて間もなかったドミニコ会に入会してしまいます。家族はいっせいに反対しますが、トマスの決意は変わりません。そこで、ついに家族はトマスを捕らえて城の中に幽閉し、さまざまな方法を使って彼を翻意させようとします。説得が無理と分かると、肉体的苦しみを与えたり、食事を制限したり、女性に誘惑させたり、考えられるかぎりのことを彼らは行ないましたが、トマスは一年間もの幽閉生活に毅然として耐え、ついにこれに打ち勝ちました。トマスを支えていたもの、それは主イエスの呼びかけに従い、自分のすべてをささげることのすばらしさだったのでしょう。彼がその後の人生で知識を磨いていったのは、決して自分のためではありませんでした。それはすべて、神の呼びかけに応え、神の栄光と人々の救いを実現するためだったのです。

実際、トマスは、自分の知識におぼれることなく、常に祈りと神の前での謙遜のうちに生きたと言われています。トマスが作った聖体賛歌は、こうした一面を示していると言うことができるでしょう。教会の中で伝統的に歌い継がれてきた賛歌、たとえば「タントゥム・エルゴ」、「アドロ・テ・デヴォテ」などはトマスの作品とされています。

さて、教会は聖トマス・アクィナス司祭教会博士を荘厳に祝う場合、福音朗読の箇所としてマタイ23・8─12を用います。この箇所は、先生、父、教師は神だけなので、私たちはそのように呼ばれることを求めてはならず、むしろ自ら謙遜でなければならないことを教えています。

この教えは、律法学者やファリサイ派の人たちに関する教え(23・1以降)の結論として語られているものです。律法学者やファリサイ派の人たちの言うことは正しいが、彼らは自らそれを行なうことはしない。彼らのすることは、すべて自分の栄誉のためであり、見せかけだけのものだ、とイエスは指摘されるのです。

イエスの時代に最も神の教え(=律法)に精通し、その知識に優れていたのは、律法学者たちやファリサイ派の人たちでした。しかし、人間同士で比較すれば優れているように見えても、神の前ではその違いはないに等しいのです。私たちの知識は神の知識には遠く及ばないのであり、どんなに知識の優れた者であっても、神の前では常に謙虚に頭を垂れなければならないのです。

この箇所で注目したいのは、律法学者たちやファリサイ派の人たちが言うだけで行なわないということと、彼らが栄誉を求め、高慢になっているということとが結び付けられていることです。神の前での謙虚さは、人々の間での謙虚さにつながっていきます。同時にそれは、神が与えてくださる知識が、人間の栄誉のためではなくすべての人の救いのためであること、だから行ないに結び付かなければその知識は意味がないことにも気づかせてくれるのです。律法学者たちやファリサイ派の人たちは、謙虚でないため、神の真の思いに気づかないのです。だから、言うだけで行なわず、それが救いへと結び付かなくとも平気なのです。

神を知れば知るほど、その偉大さを深く理解する。だから、ますます自分が低い者にすぎないことを実感する。また、その救いのすばらしさにも気づいていく。だから、知ったことを生き、生かさないではいられなくなる。これこそ、神から与えられる知識であり、そのすばらしさです。聖トマス・アクィナスの模範もこのことを示していると言えましょう。

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