こんな人もいるんだ?!

「アルファ」というキリスト教を知るための入門コースがあります。発祥の地はロンドンのホーリー・トゥリニティー ブロムプトン(英国国教会)教会ですが、最近ではキリスト教の諸教派を超えて全世界に広まりつつある素晴らしいプログラムです。このプログラムは、ゆったりとした雰囲気の中での軽い食事から始まります。その後でキリスト教信仰について語られるユーモアたっぷりで分かりやすい話をDVDで視聴し、それから小グループに分かれて、視聴したDVDについて、また人性の諸問題について皆で思い思いに分かち合います。その小グループにはあらかじめ決められた司会者がいて、話が一人の人に集中したり、話題が逸れ過ぎてしまわないようにうまく調整するようになっています。その小グループの分かち合いの中で、たまに突拍子もないことを言って完全に浮いてしまうような人が出ることもあるのですが、そのような場合には、司会者はその発言に対して異論をさしはさんだり、否定したり、間違ったこととして訂正してはならないことになっています。司会者はどのようにしてその場をとりもって話を穏やかに進めていくか責任があります。

私も10年以上前にこのコースを受けたことがあるのですが、そのとき、そんな場合にどのようにしたらよいかという例を聞き、なるほどと非常に納得したことを覚えています。もしも、とんでもない考えや意見を言う人がいたら、そのとき司会者はその発言に対して異論をさしはさんだり、否定したり、間違ったこととして訂正する代わりに、「あ、面白い考えですね」とか「珍しいご意見ですね」とか「とてもユニークな発想ですね」と言ったらどうでしょうか、ということでした。そうすれば発言者に反発感情を引き起こさせたり、恥をかかせたり、反対されたことで、傷ついたり怒ったりすることもないのではないでしょうか、ということでした。
 
最近、この話をある黙想会での講話のときにフッと思い出したのです。最初はマリア様についての話でした。マリア様は、そのご生涯の中で、人間的に考えるならば、「どうしてこんなことになるのでしょう」とか、「どうしてこんなことを言われるのでしょう」ということに遭遇されたときに、それに対して直ぐにご自分の推測による答えを出さずに、あるときは戸惑い、不思議に思い、驚きながらも、その出来事をご分の心の中に納め、いつか神から本当の答えが来ることを信じて沈黙しておられた、というような話をしていました。私たちも憶測とか、推測とか、ときには邪推によって間違った答えを出して、それで自分を縛りつけてしまうことがあるのですが、分かっていてもついつい間違った答えを出してしまうことを、なかなか止めることができないでいます。

特に他人の行動に接して、自分と同じように行動しない人、自分の思いどおりにならないと分かっていながらも、つい自分の思いどおりに動いて欲しいと心の中で要求し、思いどおりにいかないその人のことを、ときには裁き、断罪し、蔑(さげす)んでしまうことがあります。往々にして間違っている自分のその答えが間違っていることに気付こうとしないし、ますますその自分が出した答えに確信を持つようになってしまうと、それを取り除くのは至難の業となってしまうのです。

そんな話をしていたときに、先のアルファでの話を思い出したのです。そして皆さんにこう言いました。
「他人に対する間違った評価という答を出しそうになったら、その深みにはまり込んでしまわないうちに、自分に向かってこう言ってみましょう。」
『あぁ、こんな人もいるんだ?!』
『珍しいことを考える人もいるんだ?!』
『この人は私の知らない世界を持っているんだ?!』」と。

もちろん、私はそれが自分のオリジナルの発想ではなく、アルファで学んだことだと但し書きをつけながら話したのですが、実は私も秘かに実行していたことでした。ところが、後日、その黙想会に参加していた人から電話があって、職場の同僚から理不尽なことを言われて実に不愉快な気分になったそうですが、「そのとき神父さんの講話を思い出したんですよ。そして自分に『あぁ、こんな人もいるんだ?!』と言い聞かせて、『はい』と言われたとおりの指示に従って作業したんです。そうしたら不思議に心から敵対心や反発心が消えたんです」と弾んだ声で報告してくれたことがありました。ついでに加えると、その職場の同僚の人はその翌日、自分のお昼の弁当のサラダ余分に作って来て、「これどう?」と言って分けてくれたそうです。その人からそんなことをしてもらったのは初めてだったそうです。

「こんな人もいる」
「珍しいことを考える人もいる」
「この人は私の知らない世界を持っている」

というのは事実です。深みにはまり込むだけ疲れます。謙虚に認めて早目にきり上げましょう。

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